キャラメルボックス「夏への扉」
行ってきましたよー。
大阪公演に続いての東京公演。ル テアトル銀座。東京公演初日。
原作はご存じハインラインの名作『夏への扉』。
ぼくはこの本を少なくとも3回はじっくり読み返している。
それほど惚れこんでいる。
LAからの帰りの機中、LAX(ロサンゼルス国際空港)を出発直後に読み始め、
それこそ寝食忘れて読みつづけ、成田に着く直前に読了、
のめり込み過ぎて歯が痛くなったほどだ。
起業、ビジネスサクセス、友情、裏切り、恋愛、そして信頼。
SFのタイムトラベルものなのだが、コールドスリープ、
ハイヤードガール、万能フランク、製図屋ダンといった物語に
埋め込まれた数々の装置はあくまでテーマを補強するものでしかない。
そしてこの条件は優れたSF小説を成功させる条件だ。
SFを成立させているさまざまな「未来の道具」や
「時間の逆流」などは目的ではなく、手段なのである。
名手ハイラインによってがっちり構成されたハッピーエンドとカタルシス、
悪のヒロインベル・ダーキンを始め魅力的な登場人物たち、そして、ピート・・・。
小説としてあまりにも完璧にできている。キャラメルボックスの
この公演が世界初という。そうだろうなあ。難しいもんなあ。
映画ならわかる。
しかし、舞台で、一体どうやるんだろう?
キャラメルボックスの舞台そのものが初めてのぼくは、胸躍らせて
銀座へ向かった。
結果。
予想以上の素晴らしい舞台だった。
大好きな原作が、3Dとなって、動き回っていた。いや、時間旅行も含めると
4Dか。
まず、ねこのピートを人間がやっていることに驚く。
「やりやがったな」である(笑)。
しかも、着ぐるみなど一切なし。説明もなし。てらいも何もなく、
普通の人間の服を着て、「ピート」をやっている。
そこがすごいんだ。
筒井俊作の役者としての度量のすごさを感じた。
主人公ダンは畑中智行。髪型といい、話し方といい、
ドコモチャイナCEOのジョン石井さんにそっくりである。
だから公演中、ずっとジョンを見ている錯覚に陥った。
オペラグラスで見ると、もう、汗ぐっしょりの奮闘
(ピート役の筒井俊作も)。
この汗感がいい。
やはり、この汗感が、ダウンロードできない素晴らしさなんだ。
キャラメルボックス・サイトで加藤昌史さんが書いているように(→)
「ナマの舞台を100としたら映像は2ぐらいなもの」
ほんと、そう思う。
岡田さつきのベル・ダーキン、新しい解釈をしていて、それは現代的で、
これもまた、「やりやがったな」である。
また、舞台化するにあたって、次のことをどう処理するのか、腕の
見せどころだな、と思っていた。
キャラメルボックスのファンなくらいだから、知性の高い観客のはず。
彼らもきっと原作を読んでいる人が多いだろうから、同じ想いを
持って劇場に足を運んでいる。こりゃ、挑戦だね。
1. 時間旅行の行ったり来たりの複雑で濃密なプロットどう観客に説明するのか
(そもそも2時間程度の公演時間内にどうやっておさめるのか)
2. ハイヤードガールや万能フランクなどのロボットをどう表現するか
3. コールドスリープ装置をどう表現するのか
4. タイムマシンのデザインは?
5. ねこのピートをどうするのか
6. 重要なモチーフである、「夏の扉」を実際に見せるのか、イメージだけに
するのか
7. そもそも舞台はアメリカだが、それ、どうすんの?
最後の7番目については、舞台冒頭のウェイターとのやりとりのセリフで、
そのままガン、と、観客を否応なくアメリカ・ロサンゼルスなんだと
ひきずりこむ。
「おい兄弟。そのホタテガイをおれに押しつけないと約束すれば、
おまえにホタテガイ分のチップをやろう。おれのほしいのは注文した
ものだけだ。それと受け皿とだ」
舞台のセリフは「オレ」が「ぼく」、「受け皿」が別のものになっていた
のかもしれないが、上記は原作の福島正実訳のものである。
そのまま、ずばりセリフにしている。
これによって、舞台は日本ではなく、アメリカだし、ノリもアメリカンでいくんだ
という前提条件を観客は知る。
あまり詳しく書くとこれから観る人のためにネタばれになってしまうので
書けないが、上記の「考えどころ」はすべて「見せどころ」に転換できていて、
キャラメルボックスの腕前、いいね!
テーマは「困難に立ち向かう勇気」「友情」「信頼」。
キャラメルボックスの成り立ちそのもののような気がする。劇団と劇団員は
契約を交わすことなく、信頼で結ばれているという。
素敵なアートとの出会いに、感謝。
ここのところ、ソーシャルブームで、
「本人に生みだすものがあってのソーシャル」なのに、
本末転倒な動きが多く、
パソコンやスマートフォン、タブレット前にずっといて、どうでもいいような
ツイートや近況を書きこむことにいったいどんな意味があるんだ?
と疑問に思い始めていた(これ、あくまでぼく自身の話ね。みんなじゃないよ)。
「やっぱ、リアルでしょ。ダウンロードできない世界でしょ」
という流れに、自分自身がなっているところへ、
先週の「ハーブ&ドロシー」、そしてこの「夏への扉」。
ぼくにとっての「夏への扉」は、やはり、ネットの扉ではなく、
リアルへの扉なんだと、再認識できた。
3月27日まで銀座でやってます。
是非、ピートの汗を体感しに
おいで下さい。