引っ越しの効用は、昔読んでいた本がぽっこり姿を表すことだ。
『アメリカに生きる彼女たち』(片岡義男、研究社、1995)。
1949年から1995年までのアメリカ雑誌広告に登場する女性たちを観察する
ことを通じて、アメリカにおける価値観、文化の変化を読み解く、
実に興味深い考察。この本の出版されたのが95年12月、ぼくのメモによると
(ぼくはすべての本の奥付に、買った日付と書店名を書き込むクセがある)、
大阪梅田の阪神百貨店で(! いまも阪神に本のコーナーがあるのかな?)
96年1月4日に買っている。ところが、読んだ記憶がない。パラパラと見て、
そのまま、忘れてしまったのだろう。その年、グロービスの講師を始めたり
して、副業が本格化し、そのために、この本のような(一見)ビジネスのにおいが
少ない本からは距離ができたのかもしれない。しかし、この本はまったくもってすごい。
たとえばフィフティーズ(50’s)のペプシコーラの広告を見ると、当時のアメリカの
若者に訴求するポイント(当然、いまも昔も変わらず、恋が中心になる)がわかる。
シックスティーズ(60’s)のソニーの広告は、トランジスターラジオがいかにハンディで
小さいかを訴求している。しかも、女性に持たせているところに、「おんなこども
『でも』簡単に扱えますよ」というユーザビリティの良さを表現している。
もちろん、男性優位社会の価値観を前提にしているのだ。
セブンティーズ(70’s)になると、一方で家事や「女だから」という男性優位社会の
しがらみから解放されたい女性心理(右ページ写真)と、他方でそれでもやっぱり
家事(洗濯に代表される)をするのは私たちなのよね(左ページ)、という表現
になっている。
エイティーズ(80’s)は、何といってもブルック・シールズの登場。
シャツの着方が「新しい時代」を表現している。下着をつけず、足の長さと
シャツで覆われている部分と、覆われていないnudeな部分とのコントラストが、
ただそれだけで、新しい時代の始まる予感(とてもいい予感)を感じさせてくれる。
この、カルバン・クラインの広告のクリエイター、相当腕が立つ人だね。
そして最後、ナインティーズ(90’s)になると、恋人からの婚約指輪に
飛びついて喜ぶ女性(左ページ)、広告なのに普段着っぽいスタイルで語り合う
二人の姿(右上)、妖艶にピアノの上に座って、「私のためにバカルディを
弾いてちょうだい」とリクエストする姿。よくも悪しくも、90年代に、「価値観の
多様性」がこれから深まっていく、と予感させる。
いやー、勉強になる。昨夜、寝る直前にこの本を発見してしまったため、寝るのが
惜しく、睡眠不足だ(笑)。
アマゾンの中古本で入手可能です。一級のマーケティング&ブランド資料。
2012年の視点で、1995年の片岡義男の視点を検証しつつ、この本をもとにまた新たなマーケティング本が書けそうだ。