「阪本さん、たしかにおっしゃることはわかります。しかし、現実に

ウォール街や東証の株式市場システムが崩壊してしまったとしたら、

資本主義社会で生きていかなければならないのに、どうしますか?

新たなシステムを作らなきゃいけないですよね」

「株式市場は崩壊して、いいんじゃないですか?」

「(呆気にとられて、でも気を取り直し)・・・じゃ、代替となるどんなシステムが」

「システムを考えようとするからおかしくなるんですよ。要らない。

だって、日本社会は、明治時代以前は、株式市場なしでやってきたんだから

200年も経ってないじゃないですか」

「・・・」

「3月期の企業決算・・・といっても、声の大きなマスコミに掲載される規模の企業ですが、

いずれも大赤字、家電9社は三菱電機のぞいて2兆2千億円の大赤字。トヨタもみんな赤字。

アタマのいい人たちが揃っていてこのありさま。ということは、経営のルールが変わった、

と見るのが自然ではないでしょうか。

ネコのように歩き、ネコのように鳴き、ネコのように眠るのであれば、ネコではないと

明確に論証されないまではとりあえずその動物はネコである、とするのが良いと思います。

つまり、経営のルールが変わったのです」

「でもね、トヨタの社員は、全く意に介さず、従来通りのやりかたを通すでしょうね」

「そうでしょう。世界報道写真大賞を受賞したAnthony Suau(→クリック!)の

豊田市のレポートを読めば、トヨタの経営努力の方向の結果がはっきりしています。

それでもこれまでと変わらないエネルギーの方向性を続けるのであれば、

それはそれでいいんじゃないですか。結果は自然と出るでしょう」

「経済活動からドロップアウトせよ、ということですか」

「そういう60年代後半から70年代初頭のヒッピームーブメント的発想ではありません。

経営のど真ん中にいながら、それでいてお金もがっちり儲ける、そんな経営をビジネス2.0

というのです」

「わかりますが、ものすごい作業になるんじゃないですか」

「ポイントは、小さく考え、できることから実行する、です。システムを新たに構築する

必要なんて、ないと考えています。ポイントは、何をやっていたらしあわせか、という、

個人のしあわせの姿をあらためて見すえることだと思っています。編集長のしあわせと、

ぼくのしあわせは違う。違うが、違ってていい」

「しあわせ、というと、ブータンのGNHを思い出します」

「そうですね。でも、あれは、GNHという概念をみんなが知っている、というだけにとどまる

ことが多いですよね。その実態がどうなっているのか、実際にブータンに行って取材した

人は、ぼくも含め、少なくともぼくの周囲にはいない。だから、GNHは、単語としては知っているが

その実態を知らないという意味で、フランスには行ったことがないのにフランス語の

何かの単語を知っているのと、意味としては同じことです」

「でも、個人のしあわせとビジネスとは別物じゃないんですか?」

終わらない議論は続いた。

編集長との議論を終え、街を歩きながら、現在執筆中のビジネス2.0についての本では、

「理論やシステムとしてのビジネス2.0」を構築する必要など、全くない、という確信を

得た。全体を覆い尽くし、すべてを説明できる理論など、ビジネス2.0には最も遠いものなのだ。