ある企業X(社名のイニシャルではない)は、ヒット商品に恵まれた。
その商品はブームとなり、社会現象にまでなった。
ブームの頂点から2年後、その企業は人員整理をしなければならないほど
苦境に陥った。
「どうしてでしょうね」と質問された。ぼくは答えた。
「これこそが典型的な『成功による失敗』ですよ」
「思いもかけぬ成功」は、企業を時に陥れることがある。
イレギュラーの商品生産、販売、出荷は、仕入れなど財務構造を大きく変える。
在庫管理も甘くなる。
財務「構造」は簡単に変わっても、財務「体質」は一夜にして変わるものではない。
こと、組織において、
人の気持ちと財務体質ほど保守的なものはない。
昨日と同じことを、今日もやっていたい。
できれば明日も、明後日も、来年の
いまごろも。
ジム・コリンズの新作(といっても2009年の刊行だが)
『How the Mighty Fall』は成功企業が成功しているまさに
その時、衰退への種を体内に宿している様を分析してみせる。
ちょうど見た目はとても健康そうなのに、精密検査したら
病気の芽が発見された人間のように。
コリンズは5段階に分ける。
ステージ1 思いあがる
Hubris Born of Success
ステージ2 拡大路線を突っ走る
Undisciplined Pursuit of More
ステージ3 リスクと問題をなかったことにする
Denial of Risk and Peril
ステージ4 一発逆転を探る
Grasping for Salvation
ステージ5 あきらめと衰退ムードにむしばまれる
Capitulation to Irrelevance or Death
ぼくが重要視したいのは、やはりとっかかりのステージ1だ。
成功した企業は「うまくやった」という結果を手にしている。
しかしながら、「なぜ」うまくできたのか、の分析は十分なされている
とは言い難い。にもかかわらず、「ぼくたちは『なぜ』うまくできたのかを
わかっている」と勘違いしてしまいがちだ。
「これはあくまでこれこれの条件のもとでの成功であり、
前提は常に変わるから、この成功もいつまで続くかわかったもの
じゃない。また、ぼくたちはラッキーにも恵まれた」
という謙虚な姿勢でいるなら、思い上がりには陥らないのだが。
本書もコリンズの前著、前々著と同じく、しっかりとした取材、データ分析の
もとに書かれている。理想のビジネス書とはかくあるべし、という素晴らしい
本だ。
なのに、邦訳になると『ビジョナリーカンパニー3』となっちゃうのは、
いかにもコリンズに気の毒である。
ぼくの『スローなビジネスに帰れ』を『パーミションマーケティング2』、
『共感企業』を『パーミションマーケティング3』とするのと同じ
ようなもので、どうだかなあ、と疑問だ。