メルマガSurfin’バックナンバーのご紹介です。
今日は、1998年末にヤフーを訪問した時の話。
当時のぼくは旭化成サラリーマンでした。
そしてこの時の出会いが、ぼくの独立の大きなきっかけに
なります。
人生、面白いねえ。
電脳市場本舗
〜Marketing Surfin’99〜
by Surfrider
wave # 3. サンフランシスコ・レポート
vol-1;driving around silicon valley
Yahoo! のトイレはきれいだった。
伸びる会社のトイレはきれいというが、本当だ。
いまぼくは、あの、サーチエンジンの雄、Yahoo!社のトイレでおしっこをし
ている。普段日本でしているおしっことどこが違うかというと、もちろん、中身
は同じ筈だ。ただ、米国滞在中に食うものが違うから、微妙に成分が違うかもし
れないが、それはここで論じることではない。
Yahoo!は、1994年に、スタンフォード大学の学生2人David FiloとJerry Yang
が趣味で始めたもので、それがたった4年後の98年、カリフォルニア州内で年間
株価が一番上がった企業となった。
(前年比613.7%. source:The Wall Street Journal,California,Dec.30,1998)
<1> シリコンバレードライブ
今日は河野さんのご好意による案内でシリコンバレーをぐるりと回っているの
だ。河野さんはSurfin’を読んでくださっていて、「スターバックスコーヒーが
もはやありふれたものになってしまっている」という主張を書いた
「Starbucks Coffee」(初出 1998年8月13日配信、【Surf Back’99】Aloha
レポートvol.7所収)にレスを戴いて以来のご縁だ。
カリフォルニア州、サンフランシスコ近郊のBurlingameというところでSOHOビ
ジネスをされている。
27日にサンフランシスコのチャイナタウンでTakuさん、Nobuさん、そして河野
さんと忘年会をし、初めてお目にかかった。ぼくはシリコンバレーを、大阪のキ
タかミナミくらいの広さにイメージしていたのだが、忘年会の席で、「そら、違
いまっせーー」とみんなに教えられ、自分の無知を恥じた。
Takuさんによると、「大阪と京都くらいの守備範囲」とのことだ。そりゃ、歩
いて回るのは無理だ。車がないと、シリコンバレー巡りなどできるはずがなかっ
たのだ。
それで今回はあきらめていたところ、前夜、河野さんからメールが来て、「よ
ろしかったら案内します」とのありがたいオファを戴いた。こんなに嬉しかった
ことはない。早速夜中ではあったがホテルの部屋から電話し、打ち合わせをする。
Sunnyvaleというところの顧客に会うついでにどうか、とのことなので、お言
葉に甘えることにした。彼は言わないが、どうも、スケジュールをぼくのために
調整してくださったような気がする。カルトレイン(サンフランシスコと近郊を
結ぶ列車)の駅で拾ってもらい、シリコンバレードライブだ。途中、スターバッ
クスに寄り、朝のコーヒーを楽しむ。
<2> ここにもいたか千 昌夫
最初に案内されたネットスケープ社(所在地、マウンテンビュー)には驚いた。
なんであんなにビルがたくさん必要なのだ。少なくとも5棟はあったぞ。家でで
きへんのか、あの仕事は? だから経営がおかしくなって、買収されてしまうの
だ。今後シリコンバレーの千 昌夫と呼ぶことにする。そういえば現在サラリー
マンが会社に縛られてしまう原因の一つが住宅問題という。今後支払わねばなら
ない家のローンのことを考えると、会社を辞めたくても辞められない、というわ
けだ。そういう意味では、日本企業にも千 昌夫がたくさんいることになる。
グッズ販売店があるので、そこで知恵市場のエッセンス販促キャンペーン用に
賞品を仕入れた。ネスケ社ロゴ入りのゴム製コースターだ。
<3> 学校のノリ Yahoo!
サンタクララのYahoo!社は、ネット<千 昌夫>スケープ社のようにどかどか
どかとでっかいビルがたくさんあるのではなく、小ぢんまりとした、平屋だった。
好感がもてる。
窓には「Yahoo!」と飛び跳ねている人物のシールが貼ってあった。いいねえ。
パーキングにはYahoo! ロゴとイメージカラーの紫色に塗った車が2台、停ま
っていて、これも好感度アップ。なんだか、「伸びる会社」というのは、すでに
外からでもわかるのだ。今回、訪問した企業で、ネット<千昌夫>スケープのほ
か、「いまいち」の空気があったのはYahoo! と同じサンタクララにあるインテ
ル。インテルは結局は工場だ。3次産業というより、2次産業の製造のノリで、
セキュリティが厳しい。何をそんなに隠すことがある。河野さんが先日、日本か
らの顧客を案内したとき、記念写真を撮っていたら、ひとが飛んできて、文句を
言われたとのこと。パラノイドしか生き残れないというわりには、きちんとして
いたぞ。
ぼくも普段から企業を訪問することが多い仕事だが、セキュリティの厳しい会
社と業績は比例しない。つまり、厳しくしたからといって、業績がいいとは限ら
ない。あるいは、それまで開放的だったのにセキュリティという、「大企業」的
なことを考えはじめた途端、ガタガタガタと会社の空気が悪くなっていった、と
いう企業が多い。
話をYahoo! に戻す。
何のアポイントもなしにドアをぐい、とあけ、受付嬢に話しかける。
河野さんのヘルプと「Yahoo! はいまやとても有名な会社だ。ぼくはYahoo!の
熱心なユーザーだ(ウソである。普段はInfoseekのほうが多い)」などというお
べんちゃらが彼女をいい気分にさせ、オフィスに入るドアのキィを開けてくれた。
するとそこにもさらに受付カウンターがあって、女性が座っている。
「Smile!」と、デジカメで撮影してあげ、機嫌を取る。
魂胆は、社内に入って、いろいろ見たいのだ。
ロゴ・グッズを売っていた。ここでもぼくは知恵市場のエッセンス販促用にい
ろいろ買い込んだ。すると受付嬢が、ほれ、ほれ、ほれ、と、車のナンバープレ
ートとか、シールとか、くれた。河野さんが二枚目だからかもしれないし、ぼく
が好みのタイプだったのかもしれないし、ただこれをやるから単に早く帰れ、と
言いたかっただけなのかもしれない。
で、トイレに行きたくなった。という、ふりをして、オフィスの中を見る算段
だ。受付嬢は、簡単に、「そこを行って、つきあたり、右」と許可してくれた。
ついにオフィスに入った。
株価を613.7%も伸ばした企業の社内とは、一体どういうところか。ちなみに日
本の建設会社で株価がマクドナルドのハンバーガーより安い企業があって、「株
二枚でようやくマクド一個」などと言っていじめていたのだが、その会社にも受
付嬢がいて、愛想悪いんだよなあ。ということは実はYahoo! 社内にいるときは
忘れている。いまこれを書いているときに思い出したんだ。
よくあるように、仕切りがあって、各自ブースの前には、表札のように「ハン
ドルネーム」を張っている。Mad dogとかね。会議室にも名前があって、世界都
市だった。マドリッド、・・・・。
トイレに行くとき、道に迷って、出たところが社員食堂。食べたくなった。お
りしも時間はお昼だ。いいのか悪いのかわからないけど、トライしてみる値打ち
はある。
さっきの受付の女性にきいたら、意味がわからなかったらしく、ぼくの英語が
悪いのかと思ったが、多分、ひとの会社に来て、ランチを食べさせろ、というひ
とも初めてだったのではないか。それで意味がつかめなかったのではないかな。
河野さんが英語でヘルプをしてくれて、ようやく通じた。
「ちょっと待っててね、聞いてみるから」。
この開放的な会社がNOを言うはずがない。もちろんOKで、ぼくと河野さん
はふらりとオフィスに入り、学生食堂のようなカフェテリアに席をとった。
ランチ3ドル。驚異的に安い。生野菜が不足していたので、トマト、レタス、
アルファルファたっぷりの野菜サラダ。おばちゃんが「おいしいよ」と自慢のシ
ュリンプスープ。ライスの炒めもの。そしてコーラ。
サッカーゲームがさりげなく置いてある。
周囲の社員たちはまだまだ若い。学生かと思うばかりだ。
インド系、チャイナ系も多くて、シリコンバレーを支える頭脳の半分は彼らだ
というのも頷ける。
<4> もはや大企業は死ぬのみか?
Yahoo! の強さの秘密は、この若さ。このOPENさ。
そこで思ったことは、大企業はもはや変わることはできないのではないかな、
ということ。結局、トップいかんで決まるじゃない、そういうことって。SONYも
GEも大企業だが、トップが強烈な個性を持っている。ところがぼくがとてもよく
知る会社たちはいずれもトップが何を考えているのかわからない。
ミドルがいくらがんばったって、組織の壁、先輩からのアドバイスという名の
老害による邪魔、同僚の妬みなどで、阻まれる。ぼくも無茶苦茶苦労した経験が
ある。でも、変わらない。変われない。仕事は全然楽しくない。
だからといって、大企業に所属していたらどうにもならないのか、というとそ
うではない。
大声で叫ぶ元気を持つこと、だと思う。
社内政治にうつつを抜かすひまがあったら、自分を高める努力をする。
仲間を巻き込む努力をする。
電車にぎゅうぎゅう詰めになり、いやなことをいやな思いをしてやり、やっと
きた休日に、ようやくほっとする。それはまるで苦行だ。休日のための仕事なら、
やらないほうがましだ。
こういうことをやりたくてぼくたちは生きているのだろうか?
きっと違うと思う。
で、あるならば、こういうような若い、簡単な組織が現状の固いかたい壁に対
して風穴を開けるのではないか。
ぼくと同じことを考えているひとがいて、チバレイ。
「ひょっとしたら、会社というものは、気の合った仲間が集まって、自分たちが
本当にやりたいことをしていく場所なんじゃないだろうか」(千葉麗子,チェリ
ーベイブ社長)
もともと会社を意味する英語のcompanyは、「仲間」という意味だ。なんとか
&カンパニーとかいう社名があるのも、そういう意味だったと聞く。
その原初の姿に、会社は戻るのではないかな。
大企業というものは、どうせすぐには変われない。「よそさんの様子を見て」
なんて言っている。そのうちにどんどん淘汰されていく。ただ、まだマジョリティ
であることには違いない。しかし、マジョリティ必ずしも正しい、とも思えない。
ネット<千 昌夫>スケープと同じマウンテンビュー(1160 Terra Bella
Avenue)にこのほど、新しい会社が産声を上げた。
Takao”Tako”Asayamaさん(23歳、日本人)が起こしたベンチャーだ。その倉庫
のような事務所には犬がうろうろしていて、アメリカ人を含む3人の社員が仕事
をしていた(ちなみにここのトイレもきれいだった。きちんと男女の区別があっ
たし)。社長の朝山氏は、今朝日本に向かったばかりだという。この会社はまだ
できたばかりで、「仲間」という吸引力は感じられないものの、どう化けるかわ
からない「雑」の空気がある。楽しみだ。
そう、あの倉庫の空気。「まだ、何をやりたいのか、見えないね」河野さんと
ぼくは話をしたが、その、「何をやりたいのか、見えない」ことの「倉庫の雑然
さ」が、ひょっとしたら、明日大きなエンジンになるのかもしれない。
そう、シリコンバレーが教えてくれた。
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取材に応じてくれた4D MATRIXのTim Boyle(VP)、TJ Tsuda(CFO、日系二世、サ
ンノゼ大MBAをとったばかり)、Akihiro Nishiyama(Webmaster)、Hiroko Toda
の各氏に、この場をお借りして、お礼を言います。
そして、河野啓司さん。彼は、一日、シリコンバレーをドライブしてくれ、しかも、
マウンテンビューのダウンタウンにある「謎のモンゴル料理店」まで教えてくれた。
感謝です。
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Mahalo!
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Copyright (c) 1998 by Keiichi Sakamoto/Palmtree Corp. Inc.
(c) 1999 by Keiichi Sakamoto/Surfrider/Palmtree Inc.
(初出1999/1/4)
Surfrider’99:
河野さんとはその後もネットでの交流は続けており、「palmtr.com」の取得も、
彼の会社のサービスのおかげだ。5月にはNYに一緒に行く。
やはり圧巻はYahoo! でのランチだ。やってみるものだなあ、と思う。
ああいうことが旅の楽しさだ。NYでも、やってみよう。
ぼくたちと同じように楽しそうにランチをとっていた彼ら、どうみても学生
なのだが、株のおかげで、全員、とんでもないお金持ちだったのだ、とあと
になって思った。そりゃ、楽しく働くよね(^-^)。
阪本啓一 2011年
そうそう、上記の「河野さんとのニューヨーク旅行」がぼくのその後の
運命を変えたんだ。
『パーミションマーケティング』との出会い、のちにPalmtreeを一緒に
立ち上げる鈴木由歌利との出会い、いまも続く仲間との出会いをもたらした。
旅は、人にチャンスをくれるね。
懐かしすぎます!