コストは経済的概念だ。
つまり、儲けを左右するお金。
ところが、会計的に考察される折、
「法的に定義される企業体」の内部で発生する費用
のみが問題にされる。
間違いである。
ビジネスは企業の中で完結するものではない。
経済的概念とは、次のような意味である。
経済的概念としてのコストは、顧客が全面的に負担する
ものだ。
製品/サービスを購入する、ということは、そういうことである。
製品/サービスの「してくれること=価値」を顧客が
享受するためには、製品/サービスを実現するための
すべてのコストを勘案しなければならない。
そう考えると、企業内で発生するコストは顧客が負担する
コストの1/3程度に過ぎない。
つまり、コストの2/3は企業の外部で発生する。
具体例でいえば、東京ディズニーランドのアトラクションを
楽しむために神戸在住の顧客が負担するコストは
神戸から浦安へ行く交通費、エレクトリカルパレードを
楽しむためには宿泊費も必要になる。
飛行機または新幹線、ホテルの予約などの手間コスト
が必要になる。
会社を休むための前後のスケジュール調整、
家族の予定を会わせる調整もコストとして
考えて良い。
もちろん、都内在住者と比較して長時間かかる移動時間も
コストだ。
これは「家族でハワイへ行く」場合も
同じで、ハワイの観光業者が考えるべきコストは
オアフ島内で発生するものだけではない。
多くのパソコンのアプリケーションソフトを
購入するコストはダウンロードのための通信環境、
顧客登録のために必要な顧客自身による
キィボード操作やクレジットカード決済のための
情報入力、パスワードを覚える、という作業も含む。
これらすべてがコストなのであり、企業は
製品/サービス設計の折にはここまでを
視野に入れて考えなければならない。
出版ビジネスであれば、今や都市部でさえ数少なくなった
書店を「探し」、書店へ「足を運び」、書店内で
「求める本と出会うまでの時間や手間」、
書店員に相談した際の「顧客リレーションの良さ」
までをコストに入れなければ正しい戦略は立てられない。
スーツをデパートで買うとして、
裾直しの費用500円、
後日受け取りにデパートまで再び出向くための
時間コスト、売り場で「受け取りコーナー」を顧客が
見つけるまでの手間と時間コスト、
コーナーのスタッフのハンドリングコスト、
受け取って、自宅まで持って帰るコスト
までが、本当の意味の顧客負担コストだ。
以上すべて、ドラッカーの『Managing for Results』を
再読しながら気づいた重要なマーケティングポイントである。
『Managing for Results』、邦訳は『創造する経営者』という
残念なタイトル、かつ中身も魅力が半減する翻訳に
なっている。きわめてもったいない。
この素晴らしい本のエキスを、どこかで紹介していこうと思う。
MAIDO-international 6期では、もちろん、講義に活かします。