クリスマスの午後だった。少年が小さな包みを先生の

胸に押しつけてきた。あとで開けてみると、香水の瓶だった。

亡くなったお母さんが使っていたものに違いない。

先生はその一滴をつけ、夕暮れに少年の家を訪ねた。

雑然とした部屋で独り本を読んでいた少年は、気がつくと

飛んできて、先生の胸に顔を埋めて叫んだ。

「ああ、お母さんの匂い! きょうはすてきなクリスマスだ」

『小さな人生論3』 藤尾秀昭 致知出版社 p.14より引用