ロック本の読者コミュニティTeam Rock being で毎日コラムを投稿している。
「10月2日付のものが面白いので社内でシェアしたいのだけど、
フェイスブック秘密のグループ内投稿なのでシェア機能がない、
何とかして」
という要望が31件来たので、ブログに転載します。
【ロックな日日Oct2:駆け込み受注はひまつぶし】
うさぎ狩りに行く人に
「うさぎが欲しいんでしょ? これ、あげる」
と、うさぎを手渡しても喜ばれない。
「われわれを楽しませるのは、戦いであって、勝利ではない」(パスカル、パンセ135)
では、なぜ、わざわざ大変な準備をし、
いるかいないかわからない山に入ってうさぎを探そうとするのか。
「欲望の対象」と「欲望の原因」に分けて考えてみる。
「欲望の対象」は「うさぎ」だ。
うさぎを捕まえたくて狩りに出かける。確かに。
しかし「欲望の原因」は「うさぎ」ではない。「ひま」なのである。
ひまをつぶすためにたまたま思いついたのがうさぎ狩りなのだ。
「ひま」の底にあるものは
「家の中でじっとしていようと思えばいられるほど物質的には満ちている。
でも、心が満たされない。
自分には何かが欠けている。欠けているものを埋めたい」
という、どこまでいっても満たされない欠乏感である。
これをパスカルは「不幸」と呼んだ。
消費増税前日9月30日にみどりの窓口に並ぶ人たちがいた。
定期券などを購入するのだという。
彼らの「欲望の対象」は「定期券」だ。
「欲望の原因」は「増税で損をしたくない」である。
とは言え、冷静に考えてみれば、
行列に並ぶ時間で何か他のことをすればお金を稼げるかもしれない。
稼げなくても映画を観たら教養が身につくかもしれない。
本を読んでも友だちと楽しくお話してもいい。
何より、キャッシュアウトが発生する。
お金はお金のままなら服にも本にもコーヒーにも化けるが、
一度定期券に化けてしまえば定期券のままほかに流動できない。
しかし、彼らは「損をしたくない」と、大切なお金を使う。
「ひまつぶし」のために。
病院で楽しそうに歓談する老人たちも、
「病気の治療」が「原因」ではなく、「ひまつぶし」なのである。
人間の底に「ひまつぶし」(満たされない欠落感)がある限り、
戦争はなくならない。
ふと気づいたが、商売って、
「欲望の対象」と「欲望の原因」で成り立っている。
いわゆる「駆け込み」で売上が上がった店の賢い経営者はわかってる。
「これは下駄履かせてもらっただけ」
つまり、自分の商品が「欲望の対象」であっても
「欲望の原因」ではないことを知っている。
みどりの窓口に並ぶ人たちと同じであり、
「欲望の原因」は「損したくない→ひまつぶし」
なだけである。
商売の醍醐味は、そういう悲しき人間に対し、
「欲望の対象」と「欲望の原因」が一致した商品、
つまり、「あなたの商品が欲しいから、買わせてくれ!」
と言わせる創造力&想像力にあるんだろうね。
*参考図書『暇と退屈の倫理学』(國分功一郎、太田出版)
『パンセ』(パスカル、中公文庫)