人間、弱気になるとすべてが気になるもので、なんだか右手がしびれている
ような気がする。母が高血圧で脳をやっているのがよみがえる。
近所で脳ドックをやっている北野病院に問い合わせたら84,000円
で保険がきかないとのこと。とりあえず外来で診察してもらおうと予約電話を代表に
入れ直したら(脳の部門内線電話から代表への逆転送はできない由で)木で鼻をくくった
ような上から目線の対応で、だれがこんな病院、行ってやるものか。
仕方ないので、近所の某医院に行くと、今日は先生ではなく、ゲストドクター
だというが、そもそも看板に名前が書いてある先生すら知らないのだから誰でも
いいや。
問診票に
「横浜で出張中うんぬんかんぬん、腸炎は快方に向かっているが点滴中にナースが
『血圧高いですね』と言ったのが気になるので来ました。そういえば右手もしびれが
あるような気が」といった趣旨を書いておいた。もらった薬の一覧表も添付した。
呼ばれて、開口一番(ぼくがまだ椅子に座る前に)
「で、血圧高いって、数値はいくらやったん?」
初対面でこれはないやろ、と顔を見たらまだ30後半か40前半の若造である。
「いやー。数字、聞きませんでした」
「そういう積極性のないことでは困るね」
そうか、オレは積極性がないんか・・・反省しなきゃな・・ってこれって、
「積極性」うんぬんの話かい?
「へたってましたからね・・・」
それからはもう、目の前のミヤモトという若造医師に殴りかからないよう、自分を
おさえるのに必死だった。こうみえてネット黎明期にはSurfrider名にて
「マーケティング界のストリートファイター」でならした男である。
しかしぼくも成長した。
きっとこのミヤモトは、他の患者さんに対してもすべてこんな調子なんだろう。
言葉づかいを教えないんだろうね。いまどきの医学部は。
よくゲストの立場で、この医院のブランドをけがすこういう態度、とるよねえ。
ナースたちが気をつかっているのが手に取るようにわかるから、こっちも
しおらしくしていた。
大阪の天気も悪いし、医院を出た後、気分は落ち込んでいた。
どうしよう。こういうとき、このまま家に帰るとよくない。
流れを変えなきゃ。
気になっていた、近所のマッサージ店を訪ねてみることにした。
最高の対応で、午後の予約を済ませた。
若干気分が上向いた。
帰宅し、なんとかこころを暖める必要があるとセレクトした
『素晴らしき哉、人生!』
(これは邦題のほうが原題の味もそっけもないIt’s a wonderful lifeより数段いい)
を観た。ランチをとりながら。
ヒューマンで、あったかくて、最高に素晴らしい映画だ。
この映画を観るのは2回目だけど、やっぱり感動した。
(あまりに良かったので、夜、もう一度観た)
思えば、ミヤモトがああいう態度を取ってくれたおかげで、この映画を観る
気になったわけで、ミヤモトはひょっとしたら、最高の役割を演じてくれたの
かもしれない。そういう意味で、夜、ミヤモトには感謝した。
二度と行かないけどね(笑)。
ラストに向かう中、絶望した主人公が、「自分なんか、生まれてこなければ良かった」
と言う。そこで守護天使、主人公が生まれなかった世界、つまり「自分の存在しないifの世界」
を見せてくれる。
結果、主人公は、「一人の命は大勢の人生に関わっている」ことに気づき、
自分が生まれたことが無意味ではなく、大いに意義のあった人生であることを知る。
これは、深い。
「ぼくが生まれなかったら、この世界はどうなっていただろう?」 と考えた。
JOYWOWは存在しない。
Palmtreeもなかった。Orange Incもない。
『共感企業』『ブランドの授業』といった著作も存在しない。
「ブランド・ゾーン」、「とんがり」・・・といったコンセプトも存在しない。
『パーミション』『ビジネスを育てる』などの翻訳は、だれかがやったかもしれない。
でも、ぼくにとって一番大きいのは、子どもが生まれていないってことだね。
そうだ。子どもが生まれていないってことは、子どもにもらった
喜びを味わえていなかったってことだ。
こう思い至ったとき、母の笑顔が浮かんだ。