ガリガリ君はネーミングで売れた。

ネーミングがウィルスの感染力を高めた好例だろう。

一方、きわめて残念な事例もある。

覚えている人もおられると思うが、ちょっと昔、

「鈴木くん」「佐藤くん」というスナック菓子が

あった。ネットのだれかの記録によると(S&Bに取材したわけ

ではないので、真偽はわからない)、1985年に発売され、

2年くらいで店頭から消えたという。

鈴木くんが「チョッピリしお味」、佐藤くんが「ほんのりチーズ味」、

のちに田中くん(コンソメ味)、山本さん(サラダ味)も出た。

これが当時のコマーシャル(→)。

このTVコマーシャル、当時人気絶頂の歌番組「ザ・ベストテン」で

流されていたらしいから、相当の日本人に到達していたはずだ。

「鈴木」「佐藤」「田中」「山本」というネーミングからして

狙いははっきりしている。日本人に多い名字だから、親しみを

感じて買ってくれるだろう、そう考えたのだ。

露出も多い、ネーミングも工夫した。なのになぜ短命に終わったのか。

ウィルスとして、感染力が弱かったためだ。

なぜ? 以下は仮説。

1. ネーミングが「平凡なよくある名字」だったため、お菓子の味まで

平凡な味として知覚された。

*「知覚」を作るのはお菓子の味だけではなく、「オレは**を食べている」という

「**」の力も大きい。たとえば、「これ、ゴディバのチョコだよ」と言われて

食べると、ゴディバのチョコの味になる。行列のできるラーメン店はなぜうまいかと

いうと、「オレは行列のできるラーメン店で食べている」という「期待」が「知覚」

を作るから。

2. たしかに鈴木くん、佐藤くん、田中くん、山本さんは一度は買ったかもしれない。

でも、二度目はなかった。お菓子は他に山ほど売っていて、「買う理由」は他に

一杯ある。自分の名前だからひいきにして買い続けるほどの味ではない。

むしろ平凡な味だ(上記1)、と思った。事実はおいしいスナック菓子だったの

かもしれない。しかし、人間は心理の動物だ。事実は関係ない。というか、

「おいしいスナック菓子」という、氷を触れば冷たいというレベルの物理的実体は、

地球上どこにも存在しない。

平凡なネーミングが、商品そのものの価値さえ平凡にしてしまった残念なケースである。

実はぼく、「田中くん」大好きだったんだけど・・・。