ホテルは、木を切り倒すのと同じように倒すんです、と
タケグチがイシハラの隣に来てそう言って、アンドウの
足元に斜めに切れ込みを入れるような仕草をした。倒す
方向にある柱は五階から八階まで四フロア分切断して、
反対側は下から順次切断の範囲を減らします。つまり、
五階は柱を全部切るけど、六階はその半分、七階と
八階は四分の一で倒壊方向の壁際にある十本だけなんです。
村上龍『半島を出よ』(下巻、p.255)
の舞台となったシーホークホテルにいる。
部屋から見晴らす博多湾。先に能古島があり、
コマンドたちはまずこの島に上陸した。
そのホテル自慢の気持ちいいアトリウムレストラン「Seala」で
H氏と朝食。H氏、ラップトップを持参で、熱く語る。
つられてぼくも思わず身を乗り出し、90分もの長い朝食と
なった。
その後、ぼくは空港へ。
ANA252便は結構埋まっていた。
羽田空港で観察していて、気づいたことがある。
空港は、親しさをテストされる場、ということだ。
新婚の奥さんの母親が迎えに来てくれている。
まだ十分親しくないが、親しい空気を醸し出さねばならない。
それは、新米夫のみならず、母にとっても大変な工夫と
演技と知恵の出しどころだろう。
ここから「親しみのテスト」が始まる。
ほかにも「テスト中」の親戚一同などが、あちこちに。
羽田の到着ゲートから駐車場に向かう通路はそんな
「親しみテストオーラ」で満たされ、自分の車を停めてある
各階へ向かうエレベーターの踊り場で一回目のピークを
迎える。
「親しみテスト」。
大人になるというのは、このテストを出題される、という
ことなんだね。
悪くない。