さて、
通されたのは一番奥の部屋である。
「ココ、アツイネ」やり手オババは扇風機を持ってきてつけた。
中国四千年の秘宝である漢方薬入りの洗面器に足をつけたぼくの
顔をまともに扇風機の風がちぎろうとする。息、できひん。
「扇風機、止めて」
「ア。イラナイ? ソウ」
オババは残念そうに止めた。
やがてやってきたのは若くてぽっちゃりした小柄なおねーさん。
着くなり、やっとの思いで止めてもらった扇風機をガン、とつけた。
問答無用、というオーラが満ち溢れており、言えなかった。
ぼくは彼女に豆タンと名付けた。豆タンクの略である。
豆タンは、いきなりトップギアで、バンバン首を絞めてくる。
「うぎ。うぐぐぐ。うぐ。い・痛い」
「イタイ?」
「うん。痛い」
「イタイネ」ぼくの首を絞める力がさらに強くなった。
次は背中である。
「背中をどやしつける」という表現がある。
平手でバンバン、背中を叩く仕草を指す。
豆タンは、それからえんえん、背中を叩くか、ひじでグリグリグリ
やるかを続けた。時々聞く。「イタイ?」
その都度痛いというのだが、豆タン全く聞こうとしない。
ふくらはぎの筋も、ギューーーーーーーッツ、と、フランス革命時代の
拷問もこんな感じであったかと思わせるほどの筋肉直接握りの技を
繰り出し、ぼくはあまりの痛さに、頭の血管がプッチンと切れる
かと思った。
間違いなくこれは皮膚細胞の何パーセントかは壊死している、
と思ったのが意識の最後で、その後も、意識はあるがまともな
思考ができない状態が続いた。
「ぼくはお金を払って、90分、痛めつけられている。
この意味するところは何か。豆タンの願いは一体何なのか」
なんていうことすら、まるで考えられない。
途中、寒いので、扇風機を止めて、と願い出たが、却下された。
とにかく、こっちの言うことは一切聞かないのが豆タンなのだ。
ようやく「サ、ユクリ、オキテ」と終了間際のハッピータイムが
やってきた。解放されるのだ。豆タンから!
喜び勇んで起き上がったが、豆タンがそのまま許してくれる
はずがない。背中をもう一度、バンバンバンバンバン!
とどやしつけられた。頭痛と吐き気と痛みが一気に襲った。
終了後、ホテルに向かうタクシー車内で、他のメンバーが
爆笑ネタで盛り上がる中、ぼく一人、「生還」の安堵と倦怠感と
痛みに耐えたのであった。
どこかでマッサージしてもらいたい気分だった。