そうね。今回は「ヒーロー」やらして。
生まれはさ、思いっきり、もう、ウソだろ? ってくらい貧乏にして。
で、もう、笑っちゃうくらいにひどいの。
ひどくてさ。親もいなくなったりして。
で、おばあちゃんに育ててもらう。
セーネンはさ、広島から夜汽車に乗るんだよ。
「ナニクソ! いまに見とれ!」ってね。
で、東京行くはずが、なんかしらないけど、途中のヨコハマで降りる。
セーネンはアメリカにあこがれててさ。
ビートルズ好きだし。え? ビートルズはイギリス?
そんなの、カンケーないんだよ、セーネンには。
どっちにしても洋楽だから。ガイジンだから。
そう、ビートルズのリバプールだよ。港町。
無意識みたいに横浜で降りた。(*)
で、下積みを経て・・・この時もまあ、ひどいもんでさ。
これがあとでネタになるんだよ。
グッドメモリーにね。
で、メジャーデビューして。バンドで。
これはまあ、序の口で。
バンド活動は2年ちょっとくらいでいいね。
ソロになって、アメリカ行って。
作曲の力は神、作詞はしないってスペックでいこう。
何もかもできるんじゃ、ヒーローとして魅力ないから。
このへんでいっちょ自伝ての、出しとく? そうね。28歳くらいで。
で、バンバンお金儲けてさ、長者番付にも載って。
そうしているうちに、もう一個、ドッカーンという山場作っておこう。
そうね。やっぱ借金だね。すげー借金。ふつうの人なら、まず立ち直れないくらいの。
そうだなあ。
3億? もっと。 10億? もっと。 20億? ノー。35億だ。
で、これもまた返すんだよ、きれいに。どう? 面白いでしょ? ヨロシク!
人は生まれる前、どんな人生を楽しむか設計図を描いてくるとする。
われらが矢沢エーちゃんは、きっとこういう設計図を描いてきたんだろうね。
35億の借金のとき、さすがにもうダメだ、と思ったらしいけど、
飲んでのんでのんで、一週間くらいたったとき、バカバカしくなったらしい。
で、「オレ、矢沢永吉を演じよう。キャストとして」
と思ったという。
この考え方、真似できるよね?
エーちゃんは自分のことを「ヤザワ」と呼ぶ。
つまり、客観視してるんだね。
ざらついたり、「どうしよう・・・」と途方に暮れるような事件が起こったとき
「これは盛り上げるためのシナリオなんだ。ヒーロー(ヒロイン)だからこそ、
こんな事件に巻き込まれるんだ」
と。
だから、「おり」ちゃダメだ。役を演じ続けなければならない。
人生は舞台。シェイクスピア君も言っている。
どうせなら、楽しみながら、演じ続けよう。
「自分ブランド」って、キャストなんだよ。
*『成りあがり』角川文庫版 p.83