翻訳は、大阪、NY、マイアミ、NY、大阪、

パロアルト、サンフランシスコと書き継いだ。

訳者あとがきはサンフランシスコのインターコンチネンタルホテル

で書いた記憶がある。

とにかく時間がかかった。著者の英語が難しかったのもあるし、

出張が続いて、腰を落ち着けて訳せなかった事情もある。

中でも一番記憶に残っているのはサンフランシスコの

山手にあったホテルだ。

朝など、道路に雲みたいなものが揺れていて、幻想的だった。

ホテル名は忘れてしまったのだが、ストーンズをガンガンかけて

翻訳した覚えがある。

以下、同書p.172-174から引用。

(ここから)

ブランディングの起源

 ブランディングは何も新しいことではない。職人や製造業者は、自分達の

作った製品を他と区別し、違いを際立たせるため、1〜数種類のマークを

使ってきた。歴史をひもとけば、紋章を利用した事例が見られる。

最初の識別マークは先史時代にさかのぼる。それらは、次の基本的な

質問に答えるものであった。

・だれが作ったのか。

・だれの所有物なのか。

・何なのか。

・特別なものにしているのは何か。

 先史時代の狩人たちは、自分の武器に、自分のものと示すため、

名前を刻んだ。古代ギリシャとローマ時代の陶器職人は、自らが

作った陶器の底の湿った粘土に、親指を押しつけて自分の作品で

あることを示した。中世までに、家畜に識別マークを施すことは

一般的となった(実は 『ブランド(する)』という語は、古代

ノルウェー語の『燃やす』からきている)。

 古代では、王、皇帝、政府が、領地と統治の証に、

シンボルや装飾としての図形を部族、国家の紋章として使っていた。

例えば、日本の皇室は菊の御紋、ローマ皇帝は鷲、フランス王家は

最初ライオン、のち、白ゆりの紋章という具合である。

 シールもまた、多くの古代文明で識別マークとして利用された。

例えばバビロニア帝国では書類が正規のものであることを証明する

ため、シールを貼るようにしていた。中国、日本、韓国をはじめとする

極東地区では30世紀もの長きにわたり、皇帝や宮廷の要人たちは

手作りの石でできた印章(訳注・おそらく、判子、金印、玉璽のような

もの)を使って、自らの階位と威厳を示してきた。おかげで、文字

が読める者も、読めぬ者も、すべてのひとがだれが支配者で、

権力者であるかが一目でわかった。

(以下、割愛。ここまで)

かように、著者は、慎重に、レンガを一枚ずつ積んでいくような

姿勢で、ブランドについて解説し、論じていく。

簡単に、

「ブランドって、牛に焼印したのが始まりなんですよ」

とせず、歴史的な背景も含め、説いていく。

それにしてもこの本、分厚い。461ページある。

訳していて、いつまで訳しても終わらないから、おかしいのではないかと

思ったくらいだ。

そして価格は2,000円+税。

それでも、よく売れた。ほんとによく売れた。

硬派の専門書で、しかも高くて分厚い。

なのに、売れた。

ありがたい本であります。

IMG_6734